郎が街に出かけてから3ヶ月後
アルトルージュの城をゼルレッチとコーバックが訪れていた。
「よぉ」
「最近の調子はどうだ?」
「特に問題はありません」
そんなとりとめのない話をして、ゼルレッチは本題に入った。
「さて今回わしが来た意味は分かっておるな?」
「俺を平行世界にとばすのでしょう?」
「そうだ。平行世界に行き数多くの剣を見てこい。それに実戦の方が学ぶ事も多いからな。行きはわしが送るが、帰りは戻ってこれるな?」
「はい、大丈夫です。」
アルトルージュの城に行くことが決まってからの間士郎はゼルレッチは第2魔法の使い方を学び、既に宝石剣が無くとも平行世界へ行くことは出来る。
ただし宝石剣は世界と世界に直接穴を開けるが、士郎の場合世界と世界の間を通って移動をするため、知らない世界に行こうとすると世界と世界の間に取り残されてしまう可能性があるのだ。
士郎が知らない世界へ行くときはゼルレッチに世界を指定してもらわなければならない。
「確か3時間後に戻ってくるんですよね?」
「ああ、そうだ、、、では行ってこい」
そう言って士郎はゼルレッチの開けた穴に飛び込んだ。
行き先は過去なのであり戻ってこようとすれば1秒後に戻ってくることも可能だが、修行の成果を実感できないとゼルレッチが考えたため3時間後に戻ってくるように士郎に言っておいた。
「ねぇ、お爺様」
「何ですか姫様?」
「ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど」
士郎が消えてからアルトルージュはそう話し出した。
 
 
 
 
 
豪華絢爛、装飾華美。
その言葉を具現化したかのような部屋に士郎は居た。
そして目の前にはこの部屋の象徴のようなすべてが黄金で出来た鎧をまとった男が黄金でできた玉座に座っていた。
隣には反対に腰布だけをまとった野獣のような男が居た。
「おい雑種。誰に許可を得てこの部屋に入った。どのようにしてここへ来たかは我(オレ)にもわからんが王たる我は貴様がここにいる許可を出した覚えはない」
天上天下唯我独尊。
その男はその言葉を体現していた。
「ここは王たる我の間だ。我が許可した者以外存在することは許さぬ。名を名乗れ、雑種」
「贋作者(フェイカー)」
士郎はそう答えた。
「贋作者?贋作者が我に何のようだ?」
「その前に聞きたいことがあります。貴方がウルクの王、ギルガメッシュですか?」
「ほう雑種でも我のことを知っているようだな。そしてその贋作者がオレに何のようだ?」
「贋作を創るならまず真作を知らなければならない。だから貴方のとこへ来ました」
「我の財宝が目当てか。ふむ、民の要望に応えるのも王のつとめだ。喜べ雑種、貴様に我が財のひとつを見せてやる。」

                        「王の財宝」
その言葉と共にギルガメッシュの背後から剣が士郎に向かって発射された。
ギルガメッシュの「王の財宝」は世界中の宝具の蔵であり、彼はそこから宝具を打ち出すことが出来る。
そして担い手でないにしても撃ち出された宝具を防ぐことは生身の人間にとって困難であるのだが、
−キーン−
その音と共にその剣ははじかれた。
「何!?」
さすがのギルガメッシュもこれには驚嘆の声を漏らし、横に居た男も目の色を変えた。
よく見ると士郎は右手に黒いナイフの大きさの剣を握っていた。
「贋作者が新作を持っていないと思いましたか?」
「面白い。雑種いや贋作者。座興だ。あがいてみよ」
今度は10もの宝具が撃ち出されたが結果は同じだった。
ギルガメッシュは改めて士郎とそのナイフをよく見た。
その眼(まなこ)は血よりも紅く、そのナイフはどんな闇よりも黒かった。
「おい贋作者、その双眸と剣をよこせ」
ありとあらゆるものを集めた彼でもそのようなものは見たことがなかった。
「お断りします。どうしてもというなら力ずくで」
「面白い贋作者。王たる我が直々に相手をしてやろう」
「ギルガメッシュ、オレも混ぜろ」
今まで黙っていた野獣のような男、エルキドゥがそういって棍棒を持ち出した。
「好きにしろ、ただしあの双眸は傷つけるなよ」
「分かっているさ我が友よ」
そんな言葉を交えてエルキドゥは士郎に向かって飛んだ。
 
 
 
 
 
ドン!
「がはっ!!」
エルキドゥが壁にたたきつけられた。
吹っ飛ばした本人である士郎の周りには剣、槍、斧などありとあらゆる武器が散乱していた。
士郎自身は体中傷だらけだが、それは宝具が発生させた衝撃や風圧などで出来ただけでその体に触れることはなかった。
「くっくっく、、、はっはっは、、、」
ギルガメッシュはそんな中玉座で笑っていた。
今まで退屈だった日々を打ち破り、自分と同等の力を持つ盟友となったエルキドゥの出会いから1年、目の前の謎の人間がたまらなくギルガメッシュの心を震わせた。
まるでエルキドゥと初めてぶつかり合ったときのように。
「良いだろう、贋作者。貴様に我が最強の一振りを見せてやる」
彼に慢心はない。
目の前の人間は自身やエルキドゥと同等の力を持っている。
彼にとってはその事実だけがすべてだった。
強大なる力を持ち、自身より強きものが居ない世界は彼にとって孤独を与えた。
エルキドゥはそんな彼に友という存在を教えてくれた。
そして今度もそんな自分に挑んでくる強者が居る。
しかもエルキドゥのような神に創られたわけでも自分のように神の血を引いているわけでもない、いつも自分が見下している人間が。
それが彼に喜びを与える。
ギルガメッシュが出したのは螺旋状の剣。
それ自体には名はないが、ギルガメッシュはとある神の名を刻んだ。
『乖離剣エア』と。
「誇れ、贋作者。この一撃をその身に受けることを」
この攻撃を食らえば眼を剣も手に入らない。
しかしギルガメッシュは確信していた。
この人の姿をしたものはその一撃に耐えると。
そして彼が人の姿をしていながら、人でも自分が知る神でもないことを。
「エルキドゥ、どけ。貴様とて巻き込まれてはただではすまんぞ」
「そうさせてもらう」
エルキドゥの体は動くが既に戦えず、この場では彼にとって障害でしかない。
「行くぞ、贋作者」
その声に、無言で答える。
剣が手の中で2メートルほどの両手剣に変わる。
それをまっすぐギルガメッシュに向けて構える。
それぞれの真名が唱えられる

        「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)」
                    「守護者(ガーディアン)」
勝負は一瞬で付いた。
 
 
 
 
 
「大丈夫ですか?」
倒れているギルガメッシュにそう士郎が問いかける。
「贋作者、貴様何物だ?」
彼がそう問いかけるの人生で二度目だった。
「ただの魔法使いですよ。ところで俺の友達になってくれませんか?」
突然の提案にギルガメッシュの思考は停止した。
「くっくっく、、、はっはっは、、、良いだろう贋作者。貴様を我が友と認めよう」
「よかった。ところでそんなに俺の眼と剣が欲しいですか?」
「この世はすべて我のものだ。我以外が所有することは認めぬ」
「そうですね、、、欲しければあげましょうか?」
「何!?」
あれだけ抵抗しておきながらその提案には驚いた。
「ええ、ただし条件があります。」
「良いだろう言ってみろ」
「はい。貴方が、、、」
 
 
 
 
 
数十年後
彼らが初めて会合した場所に彼らは再び居た。
士郎は二人が初めてあったときと変わらない姿をしていたが、二人は年を取っていた。
これは平行世界を移動したさい、体の時間軸が本来の世界とずれるため体が成長しないからである。
ここに三人が集まったのは士郎が自身の世界に帰るのだ。
既に士郎が平行世界の人間であることは伝えており、二人とも知っていた。
「どうしても行くのか、贋作者よ。貴様の双眸と剣を我は欲しい」
「ギルガメッシュ最初に言ったはずだ。俺の双眸と剣が欲しければ俺をひざまずかせてみせろと」
それが士郎がギルガメッシュに提示した条件だった。
自身が生涯をかけて仕える王としてギルガメッシュを認め、士郎から頭(こうべ)を垂れるという意味で士郎をひざまずかせたら自身の眼と剣を捧げると約束した。
しかし何年たっても士郎がギルガメッシュに頭を垂れることはなかった。
「ギルガメッシュ、諦めろ。行かせてやれ」
エルキドゥが二人の間に入った。
「ギルガメッシュ、もしかしたらもう一度会えるかもしれない。その時こそ俺をひざまずかせてみろ」
「良いだろう、贋作者。その時こそ貴様をひざまずかせてみせるぞ」
「楽しみにしてるぞ、我が盟友よ」
ほほえみながら士郎は家族が待つ世界に帰って行った。
 
のちに平行世界のギルガメッシュ叙事詩にギルガメッシュの友として新たな人物の名が刻まれた。
突如現れた正体不明の人物の名をギルガメッシュは生涯知ることなく、関係者は彼を『贋作者(フェイカー)』と呼んだ。
 
 
 
 
 
「ただいま戻りました」
ゼルレッチの言いつけ通り士郎が送られた時間から三時間後に戻ってきた。
なぜだかそこにはゼルレッチ達だけでなく青子と橙子がいた。
「アレ?青子姉さん、橙子姉さんどうしてここに?」
「ふむ、そのことを説明するのは簡単だが、、、」
そこで言葉を句切ると青子と橙子が近づいて来る。
なぜだか士郎には二人に鬼気迫るものを感じた。
ゼルレッチ達は離れて様子を見ているだけである。
「どうしたんですか橙子姉さん、青子姉さん?」
近づいてくる二人は顔は笑っているがなぜだか額に青筋を立てている。
「士郎、あんたにも言いたいことはあるでしょうけど、、、」
「とりあえず、、、」

「一発ぶん殴らせなさい!」
「一発ぶん殴らせろ!」
言葉と同時に二人のコブシが士郎の顔面にヒットした。
 
15分後
「結局どうしてお二人が居るんですか?」
気が付いた士郎が早速問いかける。
しかし全員が渋い顔をしていて何も言わない。
リィゾに至っては目を閉じ、額にしわを作って何かを我慢しているように見え、事実剣を握っている手は震え、カチカチと音がしている。
たった一人ニコニコ顔のアルトルージュが口を開いた。
「士郎、あのね」
いったん言葉を置いて彼女は言った。
「私ね、赤ちゃんが出来たの」
「それはおめでとうございます」
一般的な知識があまり無い士郎でもそれが喜ばしいことだとわかる。
「あれ?誰がお父さんなんですか?」
どうして出来るのかは分からないが少なくとも子供は母親だけではできない。
故にその疑問は必然であった。
「この子のお父さんはね、、、
士郎よ」
「はい?あのすいませんもう一度、、、」
「だから私と士郎の子供が出来たの」
「え、でも子供って自然に出来るんですか?」
「そんな分けないじゃない。今は妊娠3ヶ月目よ」
その言葉にこちらの世界で3ヶ月前に何があったのかを思い出して士郎は顔を真っ赤にした。
「まさか!」
「うん、あのとき」
3ヶ月前の記憶が蘇る。
「あ、あ、ああああああああああああああああああああ、、、」
士郎の精神は真っ白になった。
 
「士郎大丈夫か?」
十五度目の呼びかけにようやく士郎の目に光が戻った。
「橙子姉さん、その、、、」
しかし顔は相変わらず真っ赤だった。
「さっきはすまなかったな。そういえばおまえにはそういったことは教えていなかったな」
「え〜と、そういう事っていうのはもしかして、、、」
「おまえもいい年になったし教えておこう。そうだな言葉で説明するより体で理解した方が早いな」
士郎の疑問には答えず橙子は士郎の右肩をつかみ、
「これも修行の一環よ、ラインをつなぐとどうなるか身を以て理解しなさい」
青子が左肩をつかみそのまま別室へ連れて行かれた。
「離してくださ〜〜〜〜い」
士郎の声がむなしく響いた。
 
あとがき
 
NSZ THR
今回は平行世界のことと前話の続きです。
平行世界と時間の関係は七歴史内では説明されてませんのであのようにしました。



管理人より
     ああ士郎・・・人生の墓場所かそれを素通りして即父親に直行でしたか・・・
     てっきり士郎が成人となってからと思っていましたが・・・
     平行世界の時間関係は本編では書いていませんでしたね。
     掲示板での質問に少し答えた程度でした。
     余話の修行日記に、書いてみようと思いますので。

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